幼児の吃音への対応

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幼児の吃音:いつまで様子を見る?支援の全体像と対応の選択肢

吃音(どもり)は、幼児期に比較的よく見られる発話の非流暢性の一種です。2〜5歳ごろの発達の中で現れやすく、多くの場合は自然に軽快するとされていますが、中には専門的な支援が必要なケースもあります。

本記事では、幼児期の吃音支援について、ガイドラインに基づきながら、どのような対応が求められるのか、そして早期に相談することの意義について解説します。


幼児の吃音とは?

吃音(きつおん)とは、話し始めや話の途中で「ことばがつかえる」「言葉が出にくい」といった発話の非流暢性が繰り返される状態を指します。日本語では「どもり」とも呼ばれますが、医学的には「発達性吃音」として、小児期に発症する神経発達症の一つに分類されています。

吃音の主な症状には以下の3つの「中核症状」があります:

  • 音や語の繰り返し(例:「ぼ、ぼ、ぼく」)
  • 引き伸ばし(例:「ぼーーく」)
  • ブロック(難発):言葉が出そうで出ない沈黙(例:声にならず、身体が固まる)

これらは単なる言いよどみとは異なり、話す際の「努力性」や「不随意性」が強く見られる点が特徴です。

吃音の多くは、2歳から4歳ごろの言語発達が著しい時期に発症し、この時期には約8%の子どもに一時的な吃音が見られるという報告もあります。この段階での吃音は一過性の場合も多く、自然に軽快することも珍しくありません

しかし一方で、一定数の子どもは症状が慢性化し、小学校入学以降も吃音が持続する可能性があります。特に以下のような特徴を持つ場合には、専門的な支援の対象となりやすいとされています:

  • 発症から6か月以上が経過している
  • 家族に吃音歴がある
  • 症状に波があるが、頻繁に繰り返す
  • 子ども自身が話しづらさや不安を感じている様子がある

吃音の原因は、**遺伝的要因や神経発達の個人差(脳の構造や機能の違い)**など、さまざまな要素が関係しているとされており、親の育て方や性格、ストレスが原因ではないということも、近年の研究で明確になっています。


「様子を見る」ではなく、「専門家と一緒に経過を見る」

吃音は8割以上の幼児で自然に回復するという報告もありますが、「様子を見ましょう」だけでは適切なタイミングを逃す恐れがあります。特に次のようなケースでは、早めに専門機関への相談が勧められます:

  • 吃音が始まって1年以上経過している
  • ご家族の中に吃音経験者がいる
  • 子どもが「うまく話せない」と悩んでいる様子がある
  • 就学が近づいている(就学まで1年半を切っている)

早期の相談によって、「まだ積極的な治療は必要ない」と判断される場合でも、環境調整を含めた適切なフォローが受けられます。これは、今後の経過を見極める上で非常に大切です。


経過観察と環境調整

ガイドラインでは、以下のような支援方針が示されています:

  • 年少児(3歳前後):まずは「経過観察」が基本。
  • 年中児(4歳前後):吃音が継続していれば「積極的な介入」を検討。
  • 年長児(5歳以降):基本的に「積極的な介入」が推奨。

この「経過観察」とは、単に放置することではなく、家庭での関わり方を見直し、吃音の記録を取りながら、症状の推移を把握することを指します。

家庭での環境調整のポイント

  • ゆっくり話すテンポを親が見せる
  • 子どもの話をさえぎらず、最後まで聴く
  • 難しい質問を避け、話しやすい内容にする
  • 子どもと1対1でゆったりと過ごす時間(スペシャルタイム)を毎日設ける

これらは、RESTART-DCMやLidcombe Programなどのプログラムの基盤となる支援でもあります。


積極的な治療介入の選択肢

① RESTART-DCM(リスタート・ディーシーエム)

RESTART-DCMは、「デマンドとキャパシティのモデル(Demands and Capacities Model:DCM)」に基づいた吃音治療アプローチです。この考え方では、子どもの「話す力(能力)」に対して、周囲が求める「話し方の要求」が高すぎると吃音が出やすくなるとされています。

治療では、親子のコミュニケーションの様子を言語聴覚士が評価し、「早口」「質問の多さ」「会話のテンポ」「言語の難しさ」「感情的なやりとりの多さ」など、4つの要求水準(言語的・運動的・認知的・情動的)をバランス良く下げていきます。

特徴:

  • 親への指導が中心で、親が家庭内で関わり方を変えていく
  • 週1回のセッションで1年以上かけてじっくり進める
  • 必要に応じて「流暢性形成法(話しやすい話し方の練習)」なども併用する

「プレッシャーを減らすことで、子どもが話しやすくなる」ことを目指す、間接的な支援の代表格です

② Lidcombe Program(リッカムプログラム)

Lidcombe Programは、流暢に話せた時の成功体験を強化することを目的とした行動療法プログラムです。吃音の頻度を減らすために、親が子どもの話し方を「ほめる」場面を意識的に増やし、ポジティブな発話の積み重ねを促していきます。

具体的には、1日15分間の「練習タイム」と呼ばれる親子のやりとりの中で、流暢に話せた場面を賞賛したり、自分で振り返ってもらったりします。吃音が出た時にも「いま少しつっかえたね」などと優しくフィードバックをし、言い直しを促すこともありますが、罰のような形には決してしません

特徴:

  • 親が毎日取り組むホームプログラムが中心
  • 言語聴覚士の週1回の指導が必要(指定の研修修了者が対応)
  • エビデンス(科学的根拠)が豊富なプログラムで、海外でも広く普及

なお、Lidcombe Programは「万能な治療法ではない」ことも伝えられており、保護者の生活環境や性格に合った継続的な取り組みが求められます

両プログラムにはそれぞれの特徴があり、「どちらが良いか」はお子さんの状態やご家庭の状況によって異なります。オンライン吃音相談では、これらの治療方針を理解した言語聴覚士が、初期評価のうえで適切な選択肢をご提案しています。


まとめ:迷ったら早めに相談を

吃音は「待てば治るもの」と言われることもありますが、すべての子どもに当てはまるわけではありません。適切なタイミングで専門家の支援を受けることで、子どもにとってもご家族にとっても、安心して過ごせる時間が増えます。

「このままでいいのか不安」「就学前にできることを知りたい」──そんな時こそ、私たちオンライン吃音相談をご利用ください。


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